アレクサンダー・テクニーク教師トレーニング

英国医学雑誌に掲載された調査結果(2008年8月)

2008年8月19日付けで、British Medical Journalという英国の医学雑誌で、 「アレクサンダー・テクニークは慢性的な腰痛に長期的な効果がある」とする調査結果が発表されました。

以下に概要を示します。また、整形外科医の加藤良一先生の解説もあります。

 

調査結果の概要

579人の慢性的な腰痛患者に対して、(1)通常の医療、(2)マッサージ、(3)アレクサンダー・ テクニークの6回レッスン、(4)アレクサンダー・テクニークの24回レッスンの4つの処方 に分けて、それぞれの効果を3ヶ月後、12ヶ月後に検証。

効果を計る基準は、患者への症状に対するアンケート調査で、腰痛によりどの程度 生活・仕事で制約があったかを計るRoland Disability Scoreと呼ばれるものや、直近 1ヶ月間の腰痛のあった日数など、複数の結果を計測。

この結果、12ヶ月後では、アレクサンダー・テクニークのレッスンを受けた人の方が、 通常の医療やマッサージよりも改善したという結果が得られました。

※なお、(1)(2)(3)(4)のそれぞれのグループの半分の人が「看護士が推奨するエクササイズ」 を処方され、エクササイズとの組み合わせの効果も検証しています。6回ATレッスン+ エクササイズは、24回レッスンと同等レベルの効果があったとされています。

 

調査の主体

イギリスの政府機関であるNHS(National Health Service)とMRC(Medical Research Council) の予算で調査が実施され、イギリスのサウサンプトン大学・医療科学学部プライマリーケア 学科教授のポール・リトルらにより実施されました。 実際のサンプリング対象となる患者は 2002年から2年間にわたって集められました。

論文URL: http://www.bmj.com/cgi/content/full/337/aug19_2/a884

整形外科医 加藤良一先生による調査結果解説とコメント

慢性の腰痛にアレクサンダーテクニークが効果的
〜整形外科医からみたアレクサンダーテクニーク〜

整形外科医
加藤良一先生

私は整形外科専門医で 1994年から岐阜県可児市で開業しています。 趣味でフルートを吹いていますが、その関係から5年ほど前にアレクサンダーテクニークを知りました。レッスンを1回受け、整形外科の仕事の面からも興味を持ち、アレクサンダーテクニークの日本での出版物は全て読んできました。その後数回レッスンの聴講もしました。アレクサンダーテクニークは、初めは、よくある怪しげなものかと思いましたが、科学的、医学的に正しいものと判断し、現在まで整形外科診療に応用してきました。

私は、アレクサンダーテクニークは身体の使い方の指導、教育、訓練だと理解しています。合理的な体の使い方、姿勢を指導するものです。医師から見れば、疾患、痛みを起こさない身体の使い方、ということですね。整形外科医は解剖学、運動器の構造がわかっているので、その指導の応用がしやすいと思います。

今年2008年8月19日 ブリティッシュ・メディカル・ジャーナルというイギリスの世界的な医学雑誌に素晴らしい研究結果が報告されました。慢性の、あるいは繰り返す腰痛に対して、アレクサンダーテクニークのレッスンが長期にわたって有効であることが証明されたのです。

実は、今まで、慢性の腰痛に長期間有効であると証明された治療法はほとんどありませんでした。腰を強化し安定させる運動指導が、ある程度効果があるらしいという程度でした。

今回の研究には約600人の慢性腰痛の患者さんが参加しました。

一般医による普通の治療だけ、マッサージ、6回のアレクサンダーテクニークレッスン(以下AT),24回のATの4つのグループに分け、さらにそれぞれを医師と看護婦の指導する体操(以下体操)をするグループと、体操なしのグループの2つに分けました。8グループの比較が行われました。

マッサージは週1回で6週間、6回のATは1ヶ月間、24回のATは7ヶ月間にわたって行われました。

治療開始前、治療開始後3ヶ月、治療開始後1年の、3つの時点で、 痛みによってできない活動の数、 4週間で痛みのある日数など、 が主に調べられました。 無作為比較試験という信頼できる研究方法が使われました。

要するに 慢性の腰痛に対して どの治療が、どれほど効果的なのか? 継続することで長期に有効なのはどれか? が調べられました。

主な結果は 治療開始後3ヶ月では、 一般医の普通の治療だけでは、ほとんど改善はありませんでした。 それに対して、マッサージ、6回のAT、24回のAT、体操全てが効果的でした。 この時点では、マッサージと6回のATは治療がすでに終わっています。24回のATは継続中です。 体操は、しないより、した方が効果がありました。 治療の効果は、24回のATが最も大きくて、以下、マッサージ、6回のATの順でした。

治療開始1年では、全ての治療が終了しています。 24回のAT指導は3ヶ月後より1年後、さらに状態の改善がみられました。 痛みでできない活動の数が10.7から4.6と半分に減り、4週間で痛みのある日数も28日から3日に減りました。 6回のAT指導でも同様の効果が1年後でも維持されました。痛みでできない活動の数は11から6.7と6割になり、痛みのある日数は28日から11日になりました。 体操は活動の数は改善しましたが、痛みの日数は3ヶ月の時(28日が11日に減少)と比べて効果は頭打ちで、それ以上減りませんでした。 マッサージは活動の数は改善しませんでしたが、痛みの日数は28日から14日に減りました。

24回のAT指導と体操の併用は、24回のAT指導単独と差はありませんでした。 一方、6回のAT指導でも、体操を併用すると、活動の数については24回のAT指導の72%の効果がありました。痛みの日数は体操併用でも、6回のAT指導単独(28日が10日に減少)以上には改善しませんでした。

結論として、24回のAT指導、6回のAT指導と体操の併用は慢性腰痛に長期的効果があることがわかりました。 マッサージは短期的効果はありますが、長期的効果はありませんでした。

私は整形外科は,いわば物理学であって、こわさなければ、また、こわすような体の使い方をしなければ体の痛みは起こらないと確信しています。

今、整形外科の世界では、運動療法(体操)の重要さが強調されています。しかしながら、まだ身体の使い方の指導については不十分であり、残念ながら、アレクサンダーテクニークは整形外科医にはほとんど知られていません。

この研究で体操の効果が3ヶ月で頭打ちだったのは、運動療法(体操)をしていても、体をこわせば、こわすような使い方をすれば痛みは再発するということだと思います。

一方、アレクサンダーテクニークを半年以上継続すれば、体操なしでも効果が十分あるというのは、体の使い方の大切さを示していると同時に、正しく体を使えば自然に体の筋肉を使って、体操を続けているのと同じような効果があるのではないかと推測します。つまり、よい姿勢をしていると、自然に腹筋や背筋を使うことになるからだと思います。

マッサージは短期的な効果はありますが、長期では効果は乏しいようです。 医師の処方する体操も効果があることが再確認されたのですが、それ以上に、アレクサンダーテクニークのレッスンを受けることで体の正しい使い方を知れば、従来の治療では改善しなかった慢性腰痛が、長期間にわたって大きく改善することが、今回の研究で証明されました。慢性腰痛によってできなかった活動が、3種類、再び、できるようになるのです。

私は、アレクサンダーテクニークが物理の法則と人間の心理学の両者にきちんと立脚していることから、この結果は当然のことだと理解しています。

なかなか治らない腰痛に悩んだ時、まずは整形外科で診察を受けてください。もし整形外科で重大な病気でないと診断され、どのように身体を使ったらよいかの説明が不十分だと感じたら、一時的、短期的な効果しかないマッサージを受けるのではなく、長期に効果が証明されたアレクサンダーテクニークのレッスンを受けて、正しい身体の使い方を身につけることが、より賢明であると私は思います。

<加藤良一先生のウェブサイト>
http://clinic.katohseikei.com

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